■ CHOPARD 後編(不具合と調整)

とはいうものの体系立てて効率的に進めていた訳ではなく、
[不具合発生−原因究明−原因特定−調整試行錯誤−解決]という
その都度かなりの時間をかけた対処療法の繰り返しでした。

前編(外観と分解)

不具合1 分針の外れ・緩み

分針裏側の穴の回りに先のとがったものでつついた跡が3カ所ありました。
やはり穴を狭めるために裏から叩かれていたのかもしれません。しかし
まだ緩くてそのまま取り付けても時計を立てると針が下がってしまう状態でした。

調整1 分針を取り付ける真の先端だけが若干太くなっているせいもあって、
先端ギリギリからちょっとでも奥に入るだけで緩くなってしまうため、
穴を少し狭めて、保持力の強い先端付近で固定します。

その状態で時針との間隔を保ち、風防の内側にもスレない様にして、
さらに見た目に不自然のない様に調整します。なかなか位置が決まらず
何回も動かしていると、また穴が拡がって保持力が弱くなってしまいます。


分針の穴を真の上部に合わせる事で強く保持されました。

12時位置でも不自然さが出ない様に。

不具合2 水平姿勢でのテンプの停止 数分〜数時間で停止する・姿勢によって停止する。
テンプは古いなりに振れていましたが、機械から油のすえた様な強い臭いがありました。
そこで分解洗浄をしたのですが、組上げた後でテンプが停止する様になってしまいました。
テンプ押えの裏を見るとかなりの削り跡があります。シリンダー部の摩耗やテンプの上下ブレの為、
押さえの位置の適正化が困難になっている様です。


調整2−1 ヒゲ止めのクサビが短く細いのでヒゲの固定が甘いクサビを太く長い物にして固定。
調整2−2 
押えの適正位置が見つからない→微小片を噛ませて押え位置を僅かずつ調整。
調整2−3 
「チクタク音」が均等でない→ヒゲの出入れ及びヒゲ外端の曲線を調整。
特に2と3は複合要因でもあり、あらゆる組合せでの稼働を試して最適な状態を模索します。
変形し過ぎてからあわてて元画像を参考にしたり。この時ちょっと練習してたり。

撮っといて良かった。
かなり日数はかかりましたが水平での気紛れな停止は何とか無くなりました。まだ姿勢に
よってはシリンダーとガンギ爪の位置が僅かに変わるらしく、振れが弱くなったり引っかかったり
する現象が残りました(これは後にある事で改善した)。


不具合3 時合せの時に手応えにムラがある
時間合わせをするためにリューズで針を回す時に、手応えが硬い所と緩い所がある。
硬い所は力が必要だが、緩い所は殆ど抵抗がなく、時計を振ると長針が動いてしまう程です。
この Chopard は2番車の中心筒の中にピンが通っていて、筒とピンは摩擦抵抗によって半固定状態に
あります(筒カナの方は打込みによりピンにしっかりと固定されておりズリ回りしない)。通常はそのまま
輪列の駆動が針に伝えられていますが、時合せ操作では使用者がこの摩擦以上の力を加える事によって
筒とピンをズリ回して針を任意の位置に合わせます。長年の使用によって、このピンが不均等に
摩耗
してしまい、回転抵抗に強弱が出てしまいました。手応えムラはその為に起こります。

中心にある2番車軸の出っ張りがピンの頭。文字版側の筒カナを外してから引き抜く。このピンが摩耗していた。

不具合4 針の不稼働−テンプは動いているのに針が動かない
テンプはずっと動いているのに針が回らない事がある(置き回り?)。
これは摩擦が緩い為に発生します。ユルいといってもほとんど摩擦が0に近い状態に
なると、2番車までは回るもののその筒の中のピンが滑ってしまい一緒に回らないので、ピン(分針)・
筒カナ・日ノ裏車・筒車(時針)を動かせるだけの駆動力が伝わらなくなります。結果、テンプは振れて
いて秒針も動いているのに分針時針が回らないという現象が起こります。

不具合5 ダボを押すと長針が動いてしまう
時間合わせをしようとダボを押すと長針が3分程ズレて動いてしまう。
これも摩擦が緩い為に発生します。ダボを押すと巻真からの連結歯車が香箱から離れて
日ノ裏車へ押しつけられる際、歯が噛み合う分だけ僅かにブレが起こります。この動きは、
通常はピンの摩擦が充分であれば針側は動かずに、連結車側が回る事で吸収されますが、
ピンの摩擦が弱いと針側の歯車が動いてしまい、その分針がズレ動いてしまいます。

ダボ押し連結部。通常は香箱側に連結している。

調整345 2番車と分針軸の摩擦を適正に、また均等に調整します
電子ノギスでピン軸をあちこち測ると直径で最大0.02ミリ程の差があり、断面が楕円になって
いる事がわかりました。まずピン断面を真円に戻します。ピン自体の反り曲がりも確認し、
ノギスで測りながら太い部分を2・3回ずつ研磨していきます。誤差がほぼ無くなったところで表面を
磨いてザラを取ります。次に2番車筒をごく微少ずつカシメながら、その都度実際に組み立てて、
時合せ操作での手応えが適正になるまで調整していきます。5・6回程で納得のいく堅さになりました。


不具合6 巻上げバネ切れ

毎日の様に歩度確認と調整をしていましたが、ある時リューズを巻上げていると
時計の中で「カシャン」と音がして、香箱の中の板バネが切れてしまいました。
それ以降は10回程巻くとやはり「カシャン」と音がしてバネが滑ってしまいます。

香箱の中で折り返し部分が切れてしまいました。

調整6 バネ入れ用の工具は持っていないのでこれで万事窮すかと思いましたが、たまたま
取り寄せていた洋書(図だけ眺めていた)に四ツ割を使ってバネを入れるイラスト図が
載っていました(バネの規格等他の決まりもありますが)。先日ここでも紹介しましたが
何回かの試行錯誤の末、うまく成功する事が出来ました。

さらにこのメインスプリングを交換した事でテンプの振りが格段に良くなり、姿勢差に
よる停止もなくなりました。今までのスプリングは相当ヘタっていた様です。


毎日時間を見ては時計とニラメッコしながら試行錯誤を繰返し、僅かずつですが進めて
きました。その間なんと6ヶ月近く…。他にも急激な温度変化のため調子が急変して
慌ててみたり等、とにかく色々な経験をもたらしてくれた懐中でした。


他の時計と並べてみたり。左は19セイコー。
右はモーリスラクロア・ファイブハンズ。


(自己推測もあり必ずしも正しい調整方法とは言えない部分もあるかもしれません。
個人の奮闘記的な経験です。また長くなるので試行錯誤の過程は省略しました・笑。)


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