三銘堂TOP  時計画像 OH手順表 作業道具 覚え書 HPの記述 画像掲示板 直売 LINK 書籍

 (「面白かったよポン!」的な応援ボタンです。店主が元気になるという効果があります。)
■ ILLINOIS 初期リューズ機構? ■

メーカー:イリノイ
アメリカ 1893年製
7石 BASEMETAL
リューズ巻上 リューズ引き時合わせ
表裏蓋共ねじ込み式



 イリノイのフルプレート大型懐中です。1893年製(時計史年表:明治26年)になります。ローマ時表示や細身スペード針などクラシックな文字盤です。時合わせ装置が不調で、ネジを巻き上げる時に針も一緒に動いてしまったり、針を動かす時にリューズが空回りしてしまいます。その不具合を改善しようと時送り装置を調べてみたところ、ちょっと変わった機構(割と多いのかな)になっていました。

 このイリノイ懐中のリューズ引きは現在のカンヌキでツヅミ車を上下させる方式ではなく、内部はレバーセットやダボ押し式の機構になっていて、それを制御するためのT字部品を上下させる動作をリューズで行う様になっていました(機構の詳しい解説は下の方にて)。

 歯車の微妙な動きの元になる部品が摩耗しやすい構造になっているなど、ちょっと「強引な」仕立てである感も否めませんが、現在のリューズ機構になる前の過渡期的なものの様にも思えます。ひとつの資料として仕組みを見てみるのも面白いと思います。


 文字盤に ILLINOIS の古いタイプの標記。

 裏蓋はプレーン。

 裏蓋はねじ込み式。


 裏蓋内側の標記。KEYSTONE @ BASE METAL 339410 。



機械全景。フルプレートの上に大きなテンプが力強く稼働しています。
この様な大きな懐中は古いものでもやはり安定感があります。


■標記■
文字盤 ILLINOIS

ムーブメント SAFETY PINION
ILLINOIS
WATCH Co.

SPRINGFIELD.
1082543

 
裏蓋内側 KEYSTONE
@
BASE METAL
339410

ケース 9410



 オイル過多のコンディションでした。

分解後。

 洗浄中。

 砂粒の様な汚れが多く出た。

 プレート上にリューズ機構の部品を設置。

厚く頑丈なアンクル。U字バランサー付。

 2・3・4・ガンギ車、アンクル、香箱を置く。

 プレートのテンプ受け石を、

 取り付けます。


 アンクルの位置と各輪列のホゾに注意しながら押さえを取り付け。

 横から見ながら慎重に。

 香箱押さえを取り付け。

文字盤側の角穴車を設置。

角穴車の押さえ。ネジの長さが違います。

取り付け。ネジを間違えると裏側の部品を破損します。


左の歯車はリューズを引くと下の板バネに押されて浮いてきて日ノ裏車に接続します。

時送り部品の取り付け。中間車2個を傾けて香箱か日ノ裏車へ接続します。

 文字盤側にもシリアルナンバー。


 テンプ部品一式。

平ヒゲチラネジ付きバイメタル切りテンプ。

押さえの裏にもシリアルが。

テンプ取り付け。元気良く稼働を始めました!

文字盤を取り付け。

機械回りの枠を嵌める。

ケースに入れる。

ケース枠にナンバー。 9410 。


針を取り付け風防を嵌めて完成。大きくずっしりと存在感があり、
そしてちょっと珍しい機構を持った懐中です。


 直径 55.11 mm。

 重量 124.7 g。




下記よりこの特殊な(?)時合わせ機構の仕組みを解説します。文章に
するとわかりにくいかもしれませんが画像と合わせて説明します。


 まずこのT字部品ですが、これをリューズで上下させる事で、中間車2個の傾きと接続歯車の浮沈を同時に行っています。

 この様な位置に配置されます。真ん中の出っ張りを下からL字部品で押しつけています。左下のオレンジ枠の裏側でバネがきいています。

通常の状態では下の様に中間歯車が香箱側に傾いてかみ合っているため、
リューズからの駆動は香箱へ伝わりネジを巻く動作が可能になります。


 リューズを引いていない状態(黄枠)。T字部品の左端(青枠)には接続歯車を押し上げる板バネからのダボが僅かに顔を覗かせており、右端(黒枠)には中間車2個からのピンが出ています。

 文字盤側では黒枠のピンは中間車2個の左になります。青枠のダボは右にある板バネ(緑四角)の裏にあります。青丸の接続歯車は沈んでいるため日ノ裏車とは離れています(白枠)。

ここでリューズを引くと下の状態になります。接続が香箱から
日ノ裏車へとシフトして、時合わせ操作が可能になります。


 リューズを引くと(黄枠)、T字部品が上にスライドし、青枠のダボを文字盤側に押し込み、同時に黒枠のピンを上に押し上げます。ほんの僅かな動きなのでわかりにくいかもしれません。



 文字盤側では赤丸のバネも利いて黒枠側が上にスライドします。同時に青丸側が下がって日ノ裏車へ近づき、その穴が接続歯車の真の位置と合ってきます。そこへ緑枠の板バネが裏から押されて接続歯車を下から押し上げて浮かせ、白枠部分で日ノ裏車とかみ合うようになります。

 初めは仕組みがわからずにかなりあれこれと調べてました。特に青枠にある板バネを押すためのダボ部品は見た目が半円球の小さな物で、しかも板バネに油で付着していただけだったので最初は気が付かず、洗浄の時にバネから取れて沈んでいるのを見つけてやっと気が付きました。

 覚えのない部品が沈んでたりするとちょっとびっくりします。気付かないまま床に落とさないでよかったです。

 この機構には耐久的に弱い部分があります。「板バネを押すための半円球のダボ部品」は、T字部品のエッジによって擦られながら浮沈を繰り返すために摩滅しやすくなっています。今回もそれが原因で板バネを押す力が弱まり、接続歯車が浮かなくなり、日ノ裏車と接続しなくなっていました。

 これを改善しようとしましたが、バネの浮かし具合や歯車の合わせ具合がかなりシビアで微妙なためにうまくいきません。

 これほど難しい仕掛けになるくらいなら強引にリューズ式にせずともレバーセットやダボ押しのままの方が単純でシンプルなだけに整備もしやすくずっと長持ちします。

 自分にとっては初めて見る方式でしたので仕組みを調べていくのが面白く楽しくもありました。懐中には色々な機械があるなとあらためて奥の深さを感じました。

(2008.H20.02.07)


三銘堂TOP

時計画像

OH手順表

作業道具

覚え書

HPの記述

画像掲示板

三銘堂直売

LINK

書籍